「めぐる谷の物語」と名付けました。

環境改善のワークショップ集合写真

皆さん、こんにちは!
神山しずくプロジェクト 代表の廣瀬です。

新年のご挨拶で「内的自然」という言葉をテーマに「世界の人々に、この内的自然の大切さを伝え、広げ、本当の意味での豊かな暮らし、社会を取り戻したい」と綴りました。「内的自然」は、外的自然と体験を通じた関わりの中からしか育まれません。

2024年6月末、しずくの新しい取組「水源涵養力を育む環境改善ワークショップ」を開催しました。環境改善を通じ、内的自然を育むことも私の中では大切なテーマでした。

今回は、ワークショップを開催するに至ったその経緯や想い、当日の様子、そして、これからのことをお伝え出来ればと思っています。少し長くなりそうですが、最後までお付き合い頂けると幸いです。


 

10年の活動、生物多様性、その先に見えてきたもの

われわれ神山しずくプロジェクトは、この30年で失われた川の水を少しでも取り戻そうと、活動当初から、神山町の山林や水源のあり方と10年向き合ってきました。いまなお、多面的機能を失いつつある神山町の山林整備の必要性を広く啓発しながら、町産材の新たな活用法をSHIZQブランドの商品開発を通じて世に提案して参りました。

毎年、切り旬と呼ばれる冬期に生産林に入り、間伐を進めてきましたが、環境の変化にはっきりとした実感が持てないまま、疑問が募る日々を過ごしていました。

そんな中、2年前に生物多様性の専門家 坂田昌子さんと出会い、土中環境や菌根菌、思想、文化など、里山の暮らしと環境、生物多様性が実に密接な関係にあることを学ぶ機会を得て、新しい視点と知識をたくさん頂きました。

2023年7月、SHIZQの10周年事業として「昔の暮らしと、森に想いを寄せる勉強会」と題し、神山町でシンポジウムを開催。120名を超える来場者を迎え、これからの暮らしや自然との向き合い方について議論する場を設け、町内外の方々より様々なご意見や反響を頂きました。加えて「生物多様性」をテーマにしたオンライン講座を開催し、全国から参加された皆さんから、大きな評価を頂き、環境に関心のある方々はもちろん、実際に自分たちのフィールドの環境改善に取り組んでいる方々との新たな交流が生まれました。

ここ神山町では、この数年、水が枯れてしまって暮らせない。という話しをよく耳にするようになりました。われわれが10年前から懸念してきた事が、いよいよ待ったなしの状況となって暮らしを脅かしています。全国の中山間地域では同じような課題を抱えているんじゃないでしょうか。

山林や里山における多面的機能、とりわけ水源涵養力の喪失は、人工林(単相林)や多様性を失ってしまった動植物の環境、コンクリートによる護岸排水、土中のグライ化など、さまざまな事象が複雑に絡み合っています。

本来の多様な森であれば、高木・中低木・下草や苔というように降った雨は自然の階段を降りながら、地表に到達するころには小さな小さな水滴となり、地中にゆっくり染み込みます
しかし、単相林や多様性に乏しい森ではそうはなりません。降った雨は、ほぼそのまま地表へ当たります。空から降る雨はさながら小さなミサイルです。降った雨は地中に染み込まず、表面の土砂を削りながら、コンクリート排水路へ集まり流してしまいます。雨が降るたびに地表を削られるので、苔や植物も育ちません。こんな環境では、生き物も住み着きません。虫や鳥、動物は森を循環させ、再生させる能力において天才です。そんな彼らが生きていけない環境をわれわれが作ってしまっているのです。

雨に打ちつけられ続けた大地は、徐々に固まり、とうとう目詰まりします。水や空気を通さない硬い地盤となり、コンクリートで遮断されたところは地中でグライ化を起こし、更に目詰まりを起こす。地表では分かりにくいですが、地中では雨が降るたび悪循環を起こしています。

 

フィールドとの出会い、そして葛藤

今回、ご縁があってお借りしたフィールドは、古民家の面前に昔の棚田跡、茅場やお茶畑、梅やすだちの果樹園、そして裏には照葉樹林を背負う典型的な里山古民家で1ヘクタールほどの広大な土地です。そして、このフィールドがある「金泉」と言う集落は、書いて字のごとく、昔はそれはそれは水が豊かな谷だったと、集落の皆さんが話してくれるのですが、今はどのお家も水で困っている様子です。

ワークショップ開催地

実はこのフィールドを紹介してもらったのは、2023年7月のことでした。
当初は、そのスケール感にビビってしまい、勇気が出せない、決断できないまま、ほぼ1年間、悩みに悩みまくりました。

1ヘクタールという広大な土地、自分たちで何とかなるサイズを超えている…
どこからどう手を付けたら?成功する保証は何もない。とてもじゃないけど…無理かも…と。

生物多様性の世界に触れた(学んだ)私は、環境悪化の原因や悪循環のメカニズム、その情景が立体的かつ、感覚的に脳内に、いや「腹」に入って来て「あぁそうか..そうだったんだ」と、まさに腹落ちした瞬間がありました。もちろん、全てが理解出来ている訳ではありません。

こんな広大なフィールドだけど、適切に手入れをしてやれば、もしかすると…もしかすると…昔のように水の豊かな場所に戻るかもしれない。いつもぼんやりと考えてしまうようになりました。

「もしも豊かな谷に戻すことが出来たら?」

「悪循環を好循環に変えることができたら?」

「神山の希望、いや日本の希望の谷になるかも知れない」

 

希望の谷にしたい

人工林の杉林に囲まれた貴重な照葉樹林。その照葉樹林ですら荒れて果て、山際は崩落を招き、乾燥し、水や空気の動き、多様性にも乏しい。生活に一番大切な井戸は、ほぼ枯れている状況。酸性の土壌は、ススキしか生えない。放置されてしまった茶畑や農地の再生など、このフィールドには課題が山積しています。

あらゆる角度から環境改善(有機環境土木)を進めて行かなければなりませんが、個人やチームだけの力では、どうにもなりません。

だけど諦めたくない。

ワークショップ開催地考え抜いた結果が、みんなの力を借りるワークショップという方法でした。
坂田昌子さんに具体的な改善ポイントをご指導頂きながら、みんなで有機環境土木を行い、そのノウハウや経験を共有し、楽しみながら、水や空気、多様性を育み、豊かな場所へと生まれ変わらせる。神山町、日本の新しいモデルとなる場所を目指し、人々も循環する希望の谷にしたい。そして、「内的自然」も育まれる場所として。

2024年6月26日(水)27日(木)28日(金)と、第一回目となる3日間の環境改善ワークショップを開催しました。1日30名、3日間で90名を超える参加者を迎え、その第一歩をスタートさせることが出来ました。平日開催、悪天候にも関わらず、たくさんの参加者に恵まれ、イベントは大成功を収めました。
さて、環境改善(有機環境土木)とは一体、どんなことをやるのでしょうか。

ワークショップ開催地のイメージ
※イメージ図作成にあたり、NPO法人 地球守 発行「古民家の環境つくりの作法」を参考にさせて頂きました。

この図は、ワークショップを開催するフィールドのイメージ図になります。水源涵養力が低下しているこのフィールドでは、まず②の山と果樹園の境目(山際)に、降った雨がゆっくりと地中に浸透するための仕組みを作ります。

しがらについてそれが「しがら」です。
生木の杭や枝、落ち葉を使った伝統工法の「しがら」を一つひとつ人の手で組んで行きます。

6月のワークショップでは、30mほどの「しがら」が組み上がりました。
木杭と枝、落ち葉といった自然物だけで作るしがらは、まるでビーバーダムのような構造で、水がゆっくりと浸透する機能に加え、苔や萌芽を促し、微生物や昆虫のベッドような役割も果たし、生態系の改善をも含みます。一見、脆弱に感じる素材ですが、微生物が葉っぱを1枚分解するには約3年掛かると言われており、何年か毎に、落ち葉を詰め込んでやれば、その機能を維持でき、メンテナンスも容易なんです。

実際に編んだしがら枝や枯れ葉など自然物を使って作るしがらは、検索しても明確な「マニュアル」は見つかりません。あーでもない、こーでもないと「手」を動かしながら、大地に膝をつきながら、頭でなく、五感で作っていくもの。この感覚は、「しがら組み」をやったことがある人しか分かりません。

参加者の皆さん、どうやら「しがら組み」にハマってしまったようで、終了時間が来ても手を止めず、もくもくと作業を進めます。

「しがらジャンキー♪」という言葉が飛び交いました。

普段では、経験出来ない貴重な時間となりました。

今回、もう一つチャレンジしたのが③の水脈改善です。
敷地内にコンクリート排水溝があって、自然の水の流れを遮断し、行き場を失った水脈は、コンクリートを避けるようにその下を流れています。水と空気が遮断された付近はグライ化を起こし、目詰まりします。

せせらぎについてまずはコンクリートU字溝を撤去し、代わりに藁や天然石を使った小さな「せせらぎ作り」を行いました。排水という考え方ではなく、水や空気が地中に染み込んだり、地上に出てきたりと、本来の水の流れを取り戻すための有機環境土木です。6月のワークショップでは、約3トンの石材を使って25mほどの「せせらぎ」を作りました。

悪天候の中、皆さん、ずぶ濡れになりながらも、声を掛け合い、資材や重い石をリレーで運びました。こちらの石積みも自然物が相手なので、明確な答えがありません。一つひとつの石の違いを観察しながら、五感をフルに使って組んでいきます。

やっぱり、人の力は凄いなぁ。
さっきまでコンクリート排水溝だったのに、あっという間に、石畳のような美しい「せせらぎ」が出来上がっていきました。施工中は泥水のように濁った水でしたが、ワークショップが終了するころには、綺麗な水に変わり、新しい空気の流れを感じる場所へと変貌していました。

写真とコメントではなかなか雰囲気が伝わりにくいかも知れません。
ワークショップの様子をダイジェストにまとめた動画を作りました。
ぜひその雰囲気をご覧ください。

ワークショップレポート
画像をクリックして動画を観る

 

初のワークショップを終えて想うこと。

SHIZQ10年の節目に、次の一歩を踏み出すことが出来たことは、これまでわれわれが追い求めてきたものの、ある種「答え」にリーチした感があり、未だかつて感じたことのない成果に繋がる予感がしてなりません

それと同時に、かつての豊かな谷に戻すという取組は、途方も無い労力と根気、時間が掛かりそうです。環境改善(有機環境土木)に使用する資材は、全てにおいて自然物で大量に集めなければなりません。ワークショップ開催にあたっての道具や消耗品、安全対策、運営など、活動を継続するためのノウハウや協力関係の構築、地元の理解など創意工夫が必要不可欠となります。

いくら頭をひねってみても収益事業になり得ません。しかしながら、ここで培うノウハウや経験、ネットワークは、日本の中山間地域が抱える同じような問題の「希望」となり、われわれの暮らしにおいて、かけがえのない水源、つまりは「豊かさ」を取り戻す次世代のモデルになり、それこそが未来の財産になると私は信じています。

 

われわれはこの活動を「めぐる谷の物語」と名付けました。

みんなの希望のその先に、水や空気の動き、微生物や動植物の営み、そして、そんな豊かな場所に人々もめぐる。

そんな想いをもって活動を続けて行こうと思っています。

現在、活動を続けるためのスポンサーを募ろうと思案中です。皆さんのお知恵を拝借致したく、どうか引き続き、応援をよろしくお願い致します!

 

最後に

ワークショップに参加してくださった皆さん、本当に本当にありがとうございました!

初めての開催において、至らぬ点も多かったと思いますが、参加者の皆さんの一人ひとりの笑顔と、常に前向きなエネルギーを頂き、主催した僕たちが勇気と希望を頂いたように思います。皆さんに作って頂いた「しがら」や「せせらぎ」の経過も随時観察してお届けして参ります。今さらながら、お一人おひとりにハグして回りたい氣持ちです。

第2回目の開催は、9月13日(金)14日(土)15日(日)を予定しています。
前回に引き続き、山際の「しがら作り」と、「小さなせせらぎ作り」(こちらは完成を目指します)を行う予定ですが、ぜひぜひ奮ってのご参加お待ちしております!
もちろん、新規のご参加も大歓迎!一緒に「めぐる谷」の物語を綴っていけたら、たいへん嬉しく思います。


参加者さんの声

・第一回に参加できてうれしい
・頭で考えてただけでは手に入らないものを行動から得られました。きつい方が充実感はあるのかもですね(´∇`)
・準備、運営、本当にご苦労様でした。水源に再生活動、とても大事なことだと思います。この意識がシズクプロジェクトの取り組みによって広がりますように
・しがら作りがとても興味深かったです。
・体力がないので不安でしたが、みなさん明るく頼もしくて、皆さんのおかげで3日間菌にまみれながら貴重な体験ができました♡豊かさや幸せ、遠回りしがちな現代ですが、シンプルなんだなと感じることができました。本当に参加できて良かったです。しがらもまた経過を見に行きたいです。ありがとうございます♡
・人生の豊かさについて、もう一度考える機会になりました。
・しがら組みの作業を通じて森への理解を深めることができました。何より楽しかったです。新たな人との繋がりもできました。
・水路の作り方、しがらの組み方などを学ぶことができた。

 

本動画の制作において
SPECIAL THANKS for Kuvonneさん
Kuvonne Instagram:kamiyama_another_home