こんにちは、神山しずくプロジェクトのスタッフ藤田です。
連日雨が続いた神山では、山や畑の植物がぐんっと成長したように感じます。
先日、梅雨の晴れ間を狙ってシーカヤックを漕ぎにいってきました。
訪れたのは香川県三豊市。
三豊市といえば観光地として有名な父母ヶ浜がありますが、今回の目的地は瀬戸内海の「志々島(ししじま)」!
塩飽諸島に属する人口およそ20名の小さな島で、かつては花卉業(かきぎょう=鑑賞用の花の栽培)が盛んだったそうです。
この島には樹齢およそ1200年の大クスがあり、「島の守り神」として今も大切にされているとのこと。1200年前といえば、源平合戦の戦いよりもさらに昔になりますね!
普段は山にまつわる話が多いですが、今回は瀬戸内海で出会った巨樹について紹介したいと思います。
瀬戸内海の島へ
「志々島(ししじま)というところに、巨大な大クスがあって。すごい迫力があるから、一度連れて行きたいんよね。」
そう話してくれたのは「Trip 四国の川の案内人」のアウトドアガイド・牛尾さん。
職業柄これまでたくさんの巨木を見てきた牛尾さんですが、志々島の大クスがとにかく迫力があるとのこと。それは是非見に行かねば!ということで、カヤックを漕いで行って参りました。
車が交通手段になる前、瀬戸内海は人や物が行き交う重要な「航路」でした。
いまでは島への連絡船が時たま通ったり、遠くに貨物船が見えるくらいでとても静か。
のどかな内海をゆっくりカヤックで漕いでいきます。
運がよい時は、スナメリという小型のイルカと遭遇することもあるそうですよ!
途中、粟島のはずれにある砂浜にカヤックをつけて、お昼ご飯を食べました。
さえぎるものがない晴れた海上は、なかなか過酷….
海岸沿いの小さな木陰の下は涼しくて、まるで天国の様でした。
島の奥で静かに佇む巨樹
木陰で休んだ後はさらに漕ぎ進み、目的地の「志々島」へ。
港の脇にある砂浜にカヤックをとめて、いざ出発!集落を抜けて山を登っていきます。歩くこと20分ほど、山頂付近から山の裏手側にまわったところに「大クス」がありました。
うねるように伸びる太い枝、表皮には苔が生え、その上からさらに新しい植物が芽生えています。その大きさたるや、まさに「島の守り神」にふさわしい存在感を放っていました。
調べたところによると、過去にこの一帯で土砂崩れがあり、根に近い部分が5mほど埋もれているとか。全体像はさらに大きく迫力ある姿だったのではと予想されます。
かつては大クスのまわりにも民家があったそうで、今よりもたくさんの人が島に住んでいたのでしょう。
日の入りが近づいていたこともあり長居できませんでしたが、島民の方にゆっくりと話をうかがってみたくなる、そんな場所でした。
森を支える大きな木
ところで、巨樹が森の中でどのような役割を持っているかご存知ですか?
鎮守の森には、マザーツリー(=Mother Tree)と呼ばれる木があります。森でもっとも大きな木を指し、そのような巨樹は森の中のすべての木や植物とコミュニケーションをとっているそうです。
さらに興味深いのは、マザーツリーは周囲の木々や植物に栄養を分け与えているということ。
大きな木は、雨や風から自身をまもるために森を作ろうとします。
そのために、周辺にある小さな木や植物に地中の菌類ネットワークを通して栄養を送るのだそう。
マザーツリーは森の生態系を支える重要な存在なのです。
昔話から読み解く自然との関わり方
志々島の大クスにはこのような話が残っています。
明治時代、大楠の枝を切った人が病にかかり、祈祷したところ、「神として祀れば許す」というお告げがあった(引用元:NHKアーカイブ)
実際の因果関係はさておき、島民にとって大クスの存在が非常に大きかったことが伺えます。
他の地域でも巨樹は御神木として信仰の対象になっていたり、あの淵には巨大な鯉がいるが川の主だから採ってはいけない。という話が残っていたりしますが、このような古い言い伝えは、単なる無知蒙昧な話として片付けられない部分があります。
生物多様性の専門家・坂田昌子さんは
「その土地に長く生きているものを移動させることは、生態系の撹乱を引き起こす」と話していました。
マザーツリーの話でいうと、巨樹を切ることで周辺の木々は栄養を得ることができなくなり、森全体が弱ってしまう可能性があるのです。
だから昔の人たちは、祟りというようなある種の「物語」を用いて、自然との関わり方を後世に伝えようとしてきたのかもしれません。
志々島の大クスも、マザーツリーとして周りの木々と交信しながら島の環境を支えているのだと思います。私たち人間が目で見えるものだけでは判断できない、複雑で多様な関係性が自然界にはあるのですね。
人の心の重さが、その土地を鎮めている
正直なところ、志々島での散策ではなんともいえない寂しさを少し抱きました。
港のあたりでは島の方に会いましたが、集落の奥に進むにつれて人の気配がなくなり、道中には朽ちた空き家が目に入ってくるのです。
もちろん、過疎化はこの島に限ったことではありませんが、やはり人の気配がなくなった風景には独特の寂しさがあります。
一方で、志々島港から大クスまでの道中には、ところどころに手作りのベンチが置かれていたり、いくつか看板が立っているのを見かけました。観光で訪れる人たちに向けて、どなたかが整備されたのでしょう。大クスのまわりも、定期的に清掃活動が行われているそうです。
そのような様子から、この小さな島を大切に想う人たちが確かにいることを感じました。
新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』で「人の心の重さが、その土地を鎮めている。」という台詞がありますが、まさにそのような印象を抱きました。
日本各地で過疎化が進み、地域固有の伝統や文化は失われつつあります。
だからこそ、いま自分がいる場所を足元から見つめていく。
自分の手の届く範囲から、関わりをたどっていくことが大切なのかもしれませんね。
おわりに
じつは、ここ最近、森と海のつながりを感じられている方々からのしずくへの応援が増えました。
例えば、海まで10分の建材屋さんが運営するセレクトショップDEMI1/2で、しずくの製品をお取り扱いいただいています。
DEMIさんはストレートに「海のそばで木を使った仕事をしているからこそ、しずくさんの取組みを応援しつながりを持ちたい」と2年前にオファーをいただいたのがきっかけでした。
山から海へ繋がるご縁をこれからも大切に育むとともに、今後もいろいろな情報を発信していきたいと思います。
▼しずく製品の取り扱い店舗
<志々島に行く方法>
香川県三豊市の宮下港から、粟島汽船に乗って約20分ほどです。
大クスの近くには天空の花畑という場所もあり、季節によっては、丘一面に花が咲く様子が見れるかもしれません!
ぜひ一度訪れてみてくださいね。
詳しくは三豊市観光局のウェブサイトをご確認ください。
<なぜ森の主(ヌシ) マザーツリーは伐ってはいけないか>
この話については、2023年に開催したSHIZQ10周年記念事業の基調講演会で、坂田さんが詳しくお話ししてくださっています。