皆さん、こんにちは!
神山しずくプロジェクト 代表の廣瀬です。
ここ神山では、春の気配をそこかしこに感じようになり、氣持ちも軽やかに希望と期待を胸にワクワクした日々を過ごすことが出来ています。ありがたいことです。
さて、今日は10周年を迎え、順風満帆かのようにみえるSHIZQですが、実は未だかつてない大ピンチに見舞われた事について、代表の僕にしか書けないぶっちゃけ赤裸々な記事を綴ります。どうか最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
職人育成。その想い
今回の話を進めるにあたり、過去に遡りながら経緯を説明する必要があります。
SHIZQブランドの商品たちは、木工ろくろ職人、宮竹博さん、宮竹良則さんのご兄弟無くして、この世に生まれていません。今もなお、お二人には感謝しかありません。一方、そんな師匠たちも技術を受け継ぐ後継者を作ることができなかった。という、大きな心残りがありました。SHIZQの活動を続けていくためにも、いつの日か後継者を一緒に育てようと約束したのが2014年のことでした。
時は過ぎ、2016年の年末。なんと「SHIZQの職人になりたい!」という若者が現れました。いつか来るであろう、この時のために少しずつ集めてきた木工機械や道具類を集結させ、町内の遊休施設を大改装。2017年10月に木工所としてSHIZQ LAB.を開所しました。師匠たちの惜しみない指導のもと、職人育成事業をスタートさせたのでした。
木工所の経営自体、初めてだった我々にとって、一人前の職人を育てるという重責は、計り知れないものがありましたが、スタッフみんなの頑張りと、いつも応援してくれる皆さんが居てくれたお陰で、職人になりたいと言う彼のことを、ゼロからなんとか支えてこれました。
どん底へ叩き落とされる誕生日
それから4年ほど経ち、彼自身の頑張りもあって2021年ごろから木地のほとんどを彼に任せられるまで成長してくれました。その間、紆余曲折あったこと、ここでは書ききれませんが、2021年9月には、二人目の若き職人候補を迎えるまでになり、SHIZQチームにとって希望しかなく、新旧が共に成長にする姿を横目に理想的な展望に心を躍らせる日々でした。
しかし、そんな日々も束の間。二人目の若き候補生は2023年1月にSHIZQを去ることになってしまったのです。小さなチームにとって大きなダメージとなり、暗い影を落としました。
それでも諦めません!前を向いて行きます。
2023年の春ごろから準備をはじめ、次の職人候補を募集したところ、お陰さまで素晴らしい候補生2名の採用が内定し、この4月から神山町へ迎えられるようスタッフ一同、尽力してくれているところです。
ところが、そんなある日、今では木地製作の全てを任せている職人が、突然SHIZQを去ると言い出します。ただただ彼の言葉に耳を傾けること9時間。この日のことは一生忘れられないでしょう。僕にとっては、あまりに理不尽で重く、失意のどん底に落とされるような51回目の誕生日でした。
師匠たちの想いを引き継ぎ、職人育成のために工房を整備し、紆余曲折あったこの6年間を思うと、何もかもが虚無感に苛まれ、何も手につきません。共に頑張ってくれているスタッフ、応援してくれる方々への申し訳なさ、新たな職人候補のこと、この10年の出来事をぐるぐると300万回ほど脳内再生し、考えに考えましたが、経営者として力不足な自分を猛省するしかなく、絶望の淵から出られない日々が続きました。今だから言えますが、SHIZQを解体することも頭をよぎりました。
彼は静かにSHIZQを去りました。
誕生日からわずか55日間の出来事でした。
そして、とうとう400万再生したところで新たな氣づきがありました。
僕がくよくよしているのは、これまで積み上げてきたものが無駄に終わってしまうことへの「恐怖心」。そのことを受け止められないでいたのです。
いやいや違うよ。
これまでやってきたことは決して無駄ではない。
SHIZQ LAB.(工房)もSHIZQ STORE(専門店)もある。
SHIZQの活動に共感してくれる仲間も応援してくれる皆さんもいる。
豊かな森や水源を将来世代に残していくために、我々の活動を諦めるわけにはいきません。
「だったら一からやり直せばいい。」
持つべきものは友
4年ほど前、旧友の紹介で堤卓也さんと友達になりました。
堤さんは、漆の国内流通の7割を支える「堤浅吉漆店」の若旦那。
SHIZQの取り組みに深く共感してくれているし、堤さんの漆文化を広げるための数々の活動に僕自身も深く共感している。そんなご縁から、今ではSHIZQの亀シリーズ(拭き漆)の手仕事は、堤浅吉漆店さんに全てお願いしています。
藁をも掴む思いで「助けて欲しい」と、堤さんに泣きつきました。
すると「大ピンチだ!なんとかするぞーー」と返事があって、後日、彼が紹介してくれたのが上田量啓さんでした。上田さんは、京都の伝統的なアサギ椀復興プロジェクトで活躍した木地師のひとりで、京都の木地師の技術を後世に残したいと、塗師の西村圭功さんが育成した職人。偶然にもうちが職人育成を始めたころと時期が重なります。
5年間の修行を経て、近年独立した木地師さんで、いつも謙虚な姿勢でありながら、芯の強さを感じる「作ること」の楽しみを知っている、まさに職人肌な人物。最初に話したとき「SHIZQのことは知っている。杉材を木地にする技術は凄い。いつか神山に行ってみたかった。」と話してくれて、うちの木地をお願いできないか?と相談したところ「杉を製品にするためには、独自のノウハウがあるはず、それを僕が知って問題ありませんか?」と、そこを心配してくれる。僕は「もちろん、技術を絶やさないためにも、うちのノウハウは全て共有できます。」と答え、そこから双方のやり取りが始まりました。
どん底から生まれ変われ!
木製品は天然素材を扱う以上、ひとつ一つの材料にも個性があり、さらに手仕事ともなると、どうしても職人の癖とか感性が形に反映されます。それは手仕事の難しさであり、工業製品にはない面白さでもあります。素材として難しい「杉」を製品にするだけでも、ほとんど奇跡。そんな考えもあって、SHIZQではモノ作りの現場をずっと尊重してきました。
一方、デザイナーとして理想のフォルムをさらに追求したい。
もっとよくなるはずだ。と感じていました。人の感覚は思っているより鋭く、0.5ミリの厚みの違いでも印象が変わります。高さが1ミリ変わると別物に感じるほど。
今回、上田さんに木地をお願いするにあたり、図面と商品サンプル、材料を持って何度も京都へ通いました。試作品を作ってもらい、図面と現物を比較しながら、コンマ数ミリの単位で形を調整しフォルムを詰めて行きます。このピンチを機にSHIZQ本来の理想的なデザインを実現したいと、新たに商品開発する気持ちで取り組みました。
上田さんは、デザイナーの想いに応えようと頑張ってくれ、とうとうロックグラスとデイカップのマスター木地が仕上がりました。僕がデザイナーとして思い描いていた理想のフォルムを、上田さんが技術で現実にしてくれた「奇跡の瞬間」でした。現場に同席してくれたしずくの統括は、木地を見て「これが理想のデザインだったんですね。確かにSHIZQらしい!」と、これまでの苦労と嬉しさで、涙ぐんでくれていました。
上田さんは現在、SHIZQの木地を鋭意製作してくれています。まずはデイカップ、そしてロックグラスを挽いてくれる予定です。木地が仕上がり、商品となって店頭やネットに登場するのは、もう少し先になりますが、その時には、また皆さんにお知らせしますね。理想的なフォルムを手に入れ、さらに美しくなったSHIZQのカップたちを、ぜひぜひ手にとってみて欲しいです。仕上がってくるのが、今から本当に楽しみです!
こちらは、木地師上田さんのInstagramです。
https://www.instagram.com/kazuhiro_ueda_woodturning_jpn/
こちらは、堤浅吉漆店さんのSNSです。
(Instagram)
https://www.instagram.com/tsutsumi_urushi/
(Facebook)
https://www.facebook.com/tsutsumiasakichi.urushi/
皆さん、ぜひフォローお願いします。
どうやら僕は誕生日にとんでもないプレゼントを頂いたようです。経営者として足りなかったものを経験を通して学び、教訓に変えることができます。旧友から頂いたご縁が、さらなるご縁となり、このピンチを一緒に乗り越える経験から、これまでより深い信頼関係が生まれました。そして、今まで以上に素敵なSHIZQに生まれ変わるきっかけを頂き、そのための一歩を踏み出すことができました。まだ詳しいことは発表できませんが、堤浅吉漆店さんとSHIZQのコラボも始まります。
ある日、ストア店長から「大丈夫ですよ!SHIZQスタッフはみんな大人なんだから、いざとなれば、なんとでもなります。ひとりで抱え込まないでください。」って、声をかけてもらいました。ずいぶん氣持ちが軽くなったのを、いまでも思い出します。みんなほんとにありがとう。これこそ本当のSHIZQの財産だ。
誕生日に失意のどん底を味わいましたが、いろんなことを氣づかせてくれました。
これって、まさにギフトだったんだなーーって、今では思うことが出来ます。
大きなピンチを乗り越えた新生SHIZQ。まだまだ沢山の課題を抱えながら、毎日がよちよち歩きですが、もっともっと素敵な物語を皆さんにお届けするために、これからも努力して参ります!
最後まで読んで頂きありがとうございます。
皆さん、これからもどうぞ、どうぞよろしくお願い致します!
2024年2月29日
神山しずくプロジェクト 代表 廣瀬圭治