こんにちは。
神山しずくプロジェクトの藤田です。
11月に突入し、2023年も残すところ2ヶ月を切りました。
日々が過ぎるはやさに驚きつつ、鮮やかな秋の移ろいに癒されています。
突然ですが、みなさんは野生の鹿を見たことがありますか?
馴染みがない方もいるかもしれませんが、
じつはここ神山町では、よく見かける野生動物でもあります。
一見愛らしい見た目のこの生きもの、
今日はそんな「鹿」について、話をしたいと思います。
Topic
・鹿は身近な生き物?
・神山のさらに奥へ
・残された森の現状
・塔の丸からの眺め
・鹿の食害から見えるもの
・登山を振り返って
・さいごに、岳人の森について
鹿は身近な生き物?
さかのぼること、今年の7月29日。
しずくでは、創立10周年記念事業として「昔の暮らしと、森に想いを寄せる勉強会」を開催しました。
その際、話題にあがったのが「獣害」について。神山町に限らず、日本各地の里山で鹿や猿、イノシシなどの野生動物が出没し、畑の作物が荒らされるという現状があります。その中でも、神山ではとくに鹿の増加が問題となっています。実際にSHIZQ STOREの敷地内にも早朝に降りてきたり、有志で行なっている田んぼの苗がほとんど食べられてしまったという経験もありました。
今は繁殖期に入り、鹿の鳴き声が毎晩聞こえてくるのが日常になっています。
しかし、神山町ではかつてメス鹿を保護していたという事実を勉強会で知りました。
それほど、以前は鹿の頭数は少なく、近年のように私たちの生活圏に降りてくるようなことはなかったそうです。
本来、野生動物は人間を恐れて近づかないもの。
なぜ、彼らは危険を犯してまで里山に降りてくるようになったのでしょうか。
それは、野生動物の住処である奥山(=人里離れた山奥)にエサがなくなっていることが原因にあります。
この勉強会でゲスト登壇してくださった岳人の森の山田勲さんが、
「奥山の鹿の食害はさらに悲惨な状況、ぜひ一度みてほしい。」
と声をかけてくださったことがきっかけで、私たちしずく一行は、秋の剣山系へ足を運ぶことになりました。
神山のさらに奥へ
10月下旬のある朝、山田勲さんの案内で、塔の丸 (とうのまる)にやってきました。
塔の丸 (標高1,713m)は四国百名山のひとつで、剣山国定公園内に位置しています。
登山口から足を踏み入れた先で、思わず息を飲みました。
そこには、多様な樹木が共生する森が広がっているのです。
上を見上げると紅葉した樹木の葉がハラハラと風に舞って、苔生す地面を覆うように落ちていました。
神山町でよく見るスギ・ヒノキの人工林とは違い、ダケカンバやウラジロモミ、シコクシラベなど、高山ならではの樹木もあります。
この辺りは、ニホンツキノワグマ(以下、ツキノワグマ)の生息地でもあります。
ツキノワグマは「豊かな自然の象徴」とも言われる野生動物。現在、ツキノワグマは四国では絶滅危惧種となっており、唯一残された生息地域が剣山系なのです。
残された森の現状
登山道に入ってしばらくすると、山田さんが鹿の食べ跡を発見しました。
幹の上から下まで、樹皮が剥がれているのがわかります。
鹿は食糧がなくなる冬に、木の樹皮を剥がして食べます。
とくにモミ系の樹木の被害が深刻化しているとのこと。
この写真だけでなく、森の至るところに鹿の食べ跡を確認しました。
針葉樹林は幹の周囲の皮をぐるっと剥がれると、回復できずに枯れてしまうそう。
一方でリョウブやナツツバキなどの広葉樹林は、樹皮を食べられても復活するとのことで、樹木の種類によっても違いがあるのが興味深いです。
鹿が木の皮を食べることで、樹木が枯れて山肌がゆるみ、土砂崩れや下流の河床の上昇を引き起こしているのです。
残された豊かな森は、想像以上に深刻な状態でした。
塔の丸からの眺め
しばらくして森が開けると、見晴らしの良い場所に出ました。
谷からは風が吹き、なんとも気持ちの良いところ!
シコクザサの群生が続く尾根を進みながら、横目には剣山(1,955m)や次郎笈(1,930m)、さらには三嶺(1,894m)まで続く美しい稜線を眺めることができます。
なだらかな登山道を歩いている道中でも、立ち枯れの木々が目立ちます。
これもまた、鹿の食害が原因とのこと。
森を抜けた稜線エリアの方が、深刻化しているように感じます。
鹿の食害から見えるもの
山田さんが連れて行ってくださった奥山では、想像以上に鹿の食害が進んでいました。残された森を守るために樹木ガードを巻くにも、この膨大な樹木群すべてを守ることは困難でしょう。
なぜ、このような状況が起きているのか。
それは彼らのエサ場である雑木林が、戦後の拡大造林によって消失してきたからという見方があります。川の水を取り戻すため人工林と対峙してきたしずくとしても、この現状をみなさんにお伝えし、一緒に考えていけたら、と強く感じました。
登山を振り返って
今回、改めて現地に足を運ぶ大切さに気づきました。
奥山で起きていることは剣山系のふもとに暮らす私にとっても、決して無関係ではないことを感じました。
日本の山林が抱えるさまざまな問題は、一筋縄ではいかないことばかり。現実はポジティブなことばかりではありませんし、個人でできることも限られているかもしれません。それでも、知ることを放棄しないように、もっと大きな視点で考え、できることをしていきたいと思いました。
さいごに、「岳人の森」について
7月の講演会をきっかけに、実際に奥山へ足を運ぶという貴重な機会を頂きました。
改めて、案内をしてくださった山田さん、ありがとうございました!
山田さんが運営されている「岳人の森」では、四国の貴重な山岳植物を見ることができます。しずくストアから車で30分ほどの場所です。
2023年の営業は11月末まで(12〜3月まで冬季休業)とのことですが、併設している観月茶屋でのお食事がとても美味しいので、神山にお越しの際には是非足を運んでみてくださいね。
気になる方は、ぜひ岳人の森 公式サイト もしくはFacebook をご覧ください。