こんにちは。しずくラボで木工ろくろの修行をしています、鈴木です。
大学4年の秋に移住し、神山しずくプロジェクトに参加してからこの秋で一年が過ぎました。
新しい環境で、全く初めてのことに取り組むのは慣れない負荷がかかることですが、しずくメンバーからの仕事のサポート、地域の方たちとの日常での交流から力をもらい、日々生活ができています。有難うございます。
簡単にではありますが、この一年の間、ろくろ修行を通して見えてきたもの、神山で暮らしてる中で感じたことをお伝えしたいと思います。
ろくろ修行の経過
刃物鍛冶
杉の横目を使うしずくの器では、夏に育った柔らかい年輪と、冬に育った硬い年輪が交互に重なります。
この硬さのギャップを一本の刃物で埋めるために重要なのが、オーダーメイドの刃物。
刃物鍛冶を教えてもらいながら自前の刃物を数本作り、小柄なぐい呑みから練習を始めたのが2021年の9月でした。金属を熱して叩き作る刃物鍛治。
初めは思いっきり叩いてもビクともしませんでした。
右手の握力が無くなったのを覚えています。
師匠である藤本さんと宮竹さんからは最初に「炭の配置の仕方」や「ヘソの前当たりの高さで叩く」などの基礎を教わり、一日に一本ずつ実践していきました。
使用する金属はとても硬く、叩き延ばすのに最適な温度は1200度から1400度。炎がオレンジから白色に変わる間くらいのタイミングです。刃先を覆うように炭を配置して、炭の隙間から炎が漏れすぎないように注意します。
そして、炉から取り出した刃物は、最も力が伝わる位置、肘が直角になるヘソの高さで叩きます。
特に難しいのは刃物を炉から取り出すタイミングです。最適な温度で取り出した時は、叩くとグイッと伸びますが、温度が上がりすぎると脆くなり叩いた時にポロっと折れてしまいます。
熱しすぎて何度も刃先を落としましたが、繰り返すうちにイメージした刃物の形に近づくようになっていきました。
ろくろ削り
コップの外側・内側用、荒削り・仕上げ用と、用途に応じた刃物が一通り揃ってからは、ぐい呑みを削る練習を始めました。
ここで初めて、使う刃物の精度次第で完成度がまるっきり変わることを体感したのです。
仕上がりを良くするために、刃の厚みを薄くしたり、刃が木地に当たる角度を変えたりして、どうしたら一番良く切れるかを探る作業を繰り返しました。
藤本さんからは、削りくずや音に注意を払うように教わりました。「見本に」と貰ったのは、軽くて薄い鰹節のようなフワフワの削りくず。それまで、きな粉のような細かい削りくずしか出せていなかったので、見本の削りくずを教材にして練習を重ねました。
また、砥石の使い方やメンテナンス方法を見せてもらったことで、段々とフワッとした削りくずがでるように。
練習を始めて半年、140個ほど削った中で基準をクリアしたものは塗装職人によるコーティングを経て完成し、自分がゼロから作り出したぐい呑みを両親に手渡すことができました。
日本酒を注ぎ金色味を増した年輪は美しく、「今までで一番美味い!」と思える乾杯ができました。
故きを温ねて新しきを知る
毎日、ラボで黙々と作業をしていると、バランスを取ろうとしているのか、無性に人と話したくなることがあります。
人口が少ない神山ですが、誰かに話しかければ何か会話が始まっていきます。そんな中でも、特におじいちゃん・おばあちゃん世代から聞く話は面白い。
道端で話が始まると、「あの山に雲がかかると雨が降る」という天気を読む知恵から、意外と知らないことわざまで、日常に役立つプチ知識を授けてくれます。
何回か話をしていくと「それはもう時代遅れじゃないか」と反応してしまうような意見も聞きます。
それでも、あえてじっと耳を傾けていると、現代にも役立つことが見つかる時があるのです。
時々厳しいことも言ってくれますが、その姿勢には「懐かしい優しさ」を感じます。
長い間残ってきたコトにはそれなりの理由があるはずです。
「古い」というイメージに引っ張られすぎて大事なことまで見落とさないようにしたいと思います。
しずくでの活動以外にも、プライベートでは地域での共同作業を通して、山仕事から畑や田んぼ作業、ご近所さんの大工仕事のお手伝いなど、季節毎に多様な経験をしました。
また、人との対話を通して自分自身についてもより良く知ることができました。
今後も引き続き、ろくろ修行や神山暮らしの中で身体感覚を養い、他者との交流を通して多くを学び取っていきたいと思います。