現役大学生の僕がSHIZQの職人を目指した理由《後編》

こんにちは。神山しずくプロジェクトの佐坂です。

今日は節分ですね。節分という言葉には、「季節を分ける」という意味があるのだそう。
昔の日本では、春は一年のはじまりとされ、特に大切にされたようです。
そのため、春が始まる前の日、つまり冬と春を分ける日だけを節分と呼ぶようになったそうです。

そう考えるとなんだか明日は新しい気持ちで1日が始められそうな気がしますね。

今回は前回に引き続き、2021年9月に入社した職人見習いの鈴木くんのインタビューの後編をお届けします。

前編ではしずくとの出会いや、どうして職人になろうと思ったのか、木工職人について今感じていることなど、たっぷりな内容でお届けしました。

詰め込み過ぎていたかな・・と不安に思っていた矢先、「メルマガ・ブログを楽しく読ませていただきました。内容が充実していて、後編も楽しみにしています」と、激励のメールを送ってくださった方がいらっしゃり、とても嬉しく有り難かったです。

後編では、現役大学生でしずくに入ることをなぜ決めたのか、都会から移住してきて今の神山暮らしをどう感じているか、目指す人間像など、さらに核心に触れる内容になっております。

topics

・現役大学生でしずくに入った理由
・しずくに入社してみて見えたもの
・神山で暮らしてみて実感したこと
・伐採作業に立ち会って芽生えた覚悟
・目指す人間像

このインタビューが皆さまの何かを想うきっかけになることが出来たら嬉しいです。

前編はこちら


▶︎現役大学生でしずくに入った理由

ー しずくは職人募集を2021年にしていたので、鈴木くんは在学中のまましずくに入ってきたけど、そのことに対して躊躇は無かった?
卒業まで待って欲しいという選択肢は無かった?

初めてリモートで話した時、実は卒業まで待ってと説得しようかと考えました。というのも、大学を卒業してから引っ越して働き始めるのが普通だと思っていたからです。

でも、説得しようと色々理由をつけるよりも、自分の思い込みを変える方が遥かに簡単だと気付いてからは躊躇する気持ちは無くなりました。

「そもそも卒業まで待つ必要ある?」って自問したけど特に答えがありませんでした。

もし、もう一つのルートになっていたとしたら、今よりもっと多くの趣味のスプーンを削れていたかもしれないけど、毎日山の中を散策したりご近所さんに大工仕事を教えてもらうことはなかったはずです。

「大学生のうちにもっと遊んでおかなくてよかったの?」ってよく聞かれます。

もっと遊びたかったです、なので神山に来ました。

ー しっかり自分と向き合って出した答えは納得ができるし、そうする事で覚悟が持てるんだろうね。

 

山を散策師匠の藤本とお昼休憩に山を散策


▶︎しずくに入社してみて見えたもの

ー しずくに入社する前と、入社後のイメージって何か変わったところはある?

大きく変わったことはないです。
でも輪郭がもっと見えるようになったという意味では変わったかもしれない。

プライベートの時間も共有していく中で、メンバーの「人となり」が分かるようになったことが大きいです。
みんな特技とか趣味が豊富なので仕事に関わること以外も色々と教えてもらっています。

ー もうだいぶ馴染んでいるよね。初めは緊張してたかな?

特に緊張はしてなかったです。初めて会った日から一緒にご飯食べたりしていましたし、それだけ皆がオープンに接してくれたので。

ー すごいね。(笑)

「オープンさ」というのはすべてを話そうとすることではなくて、「偽らない」っていうことだと思うんです。
それって肌感覚で分かるので、大事な決め手でした。

20代を過ごす場所を決めることは、結構な一大決断でしたけど、迷いなくできたのはそういうところにあります。

ー それを肌で感じ取れて良かった。

はい。あと、モノづくりって結構アナログかなって思っていたんですけど、製作計画や他部門の仕事内容をオンラインで可視化できる仕組みがあって安心材料になりました。

また、一人一人の気持ちと意見が共有できる機会が定期的にある。
それは組織としてとても大事なことだと思います。

ー 可視化できるシステムは最初から完璧に出来ていた訳じゃないけど、東條(工房マネージャー)が構築していってくれて。新しいショップが出来たということもあって、SHIZQがどんどん一人歩きしないように、いろんな角度から誠意を持って向き合っていかないといけないというのがみんなの中であったんだと思うんだよね。

なるほどですね。今、藤本さんが製作に全集中して、僕がぐい呑みを削る練習ができているのも東條さんが全体を上手くマネジメントしてくれているからですね。

ー 役割がちゃんと分かっていることも安心材料のひとつだよね。販売担当で入社した私は、2020年のコロナ当初、少し不安になった時があって。お店もしばらく閉めることになり、自分の役割が分からなくなりそうな時期もあったけど、その時に、他のスタッフのお手伝いをやらせてもらって。みんなの役割が分かったり、しずく全体の事や、自分とも向き合えて、今思えばとても良い時間だったと思う。

 

仕事仲間と木しずくチームとお世話になっている金泉製材さんと

▶︎神山で暮らして実感したこと

ー 兵庫から移住してきて、4ヶ月だね。神山での暮らしはどう?居心地はいい?

めっちゃいいです。身体がめっちゃ元気です。

ー そんなに身体の調子悪かった?(笑)

悪かったわけじゃないんですけど(笑)

今住んでる家の周りは騒音が全くないし、湿潤な気候でとても快適です。引っ越して数日目の夜に空を見たら、天の川がくっきり見えて目を擦りました。生まれ育った地元は夜も明るかったので星が綺麗に見えるのが嬉しいです。
今の神山での暮らしを一言で表すなら「健康的」

ー 体調が良いのが移住してまず感じたこと?

第一印象はそうですね。
他には、人と会うことがとても増えました。

ー どういうきっかけで人に出会うの?

偶然の出会いが多い気がします。地域の集まりや散歩中とか、週末のSHIZQ STOREで大学生の友人ができたときは嬉しかった。

コミュニティ面で不安がある移住者も多いなかで、鈴木くんは早くから馴染んでいる感じだけど、どうやってコミュニケーションをとっていっているの?

移住する1日前に、僕に初めて英語を教えてくれた先生が「気持ちがあってはじめて縁は繋がるねんで」と教えてくれました。

僕は自分から「コンコン、友達になりましょう〜」という感じではないけれど、例えば、たまたま佐坂さんが誰かを紹介してくれた時などに「その人のことを知りたい、話したい」という気持ちがあって次に繋がっているのかなと思います。
なので自然と、色々な職業や年齢層、背景を持つ人達と知り合うことになります。

ー 資本となる身体が原動力となり、そこに気持ちが重なって、人付き合いも充実しているんだね。生活において不便はない?

最初はありました。今も探せば出てきます。(笑)

幸いなことに、自由に改修できる家を選べたので、地元の大工さんの知恵を借りたり、古材を再利用したりして少しずつ改装しています。
家は買うものだと思い込んでいましたが、作って直していけるものなんですね。

 

小屋を建てる青年
仲良くなった大工さんに小屋を建てるのを教えてもらっている様子

▶︎伐採作業に立ち会って芽生えた覚悟

ー 2021年末初めてしずくの伐採作業に立ち合ったんだよね。現場はどうだった?

大径木が倒れる振動を足裏から脳天まで全身で感じました。切る姿を見て、かっこいいと思ったし、林業を担う一員になれた気がしました。

ここに来るまで日本が抱えている林業の問題は少し知ってはいたけど、遠いことのようにしか思えなかった。それが今回の伐採を経験して、自分事として捉えられるようになりました。

伐採初日は寝付けなかったです。なんか脳内麻薬みたいなのが出ているのが分かって。(笑)伐採が終わった翌日の夕方5時くらい、工房で作業していると藤本さんが立ち上がってキョロキョロしていたんです。

そしたら「早めに終わるわ、鈴木くんも疲れていると思うよ」と言われたんですね。

それで「あ、自分疲れてるのか、休まな」と気づきました。

ー そのくらい山での2日間は非日常だったんだね。

はい。倒れた木を触ったらすごくしっとりしていて、こんなに水分を蓄えてるのかとビックリしました。香りも生っぽくて、薄皮をめくって食べたんです。そしたら樹液のせいか少し甘くて。
記念的な2日間でした。

 

木を切る青年
しずくに来て初めての伐採作業

ー 伐採にいくと改めて杉の美しさを感じるよね。伐採したての赤と白の木目の美しさはすごい。食べたことはないけど(笑)命をいただいているっていうのをすごく感じる場でもあるよね。ひとつとして無駄にしてはいけないなって思うよね。

そうですよね、皮から葉っぱまで余すところなく使える。
なんだか年輪を見る目も変わりました。

ー どんな風に?

年輪って外からは見えないじゃないですか。木を切ったときにだけ見える。
なので木にとっては結構プライバシーなとこですよね。

ー たしかに(笑)

その木が辿ってきた歴史を見れるってすごい。それは僕たち人間にはない。自分の過去のことだって思い返せることはあるけど段々曖昧になっていく。
けれど、木の場合は年輪という形で確かに残っていて、その軌跡を刃物で順になぞっていく。

ー 年輪のことをそんな風に感じているって聞いたのは初めて。けど本当にそうだね。確かにここに何十年もいたことを教えてくれる。

そんな年輪を見ていると、50年前に一所懸命に杉を植えた人たちのことを思う時があります。「頼んだぞ」って想いながら植えていたのかもしれません。
「先祖が残してくれた木を丁寧に使うってどういうことなんやろう」って考えさせられます。

ー 伐採作業をしている金泉さん(しずく立ち上げ当初からお世話になっている自伐林業家の金泉裕幸さん)を間近で見て何か感じたことはある?

「林業は木切るだけと違うんよ、結構考えなダメで、アホではできません」とよく言っていました。ほとんどの木は急な斜面に立っているので、周りの木の位置や運びやすさを考えながら倒す方向を決めていました。

大陸国で見るような平坦で緩やかな森林と、高くて急な日本の山林とでは同じ林業でも意味が違う。現場で作業する人と監督が上手く連携してやる必要があるんだとわかりました。

金泉さんが大径木を切る前に手を合わせていたのも印象的でした。

ー 私も伐採に立ち会うといつも命懸けの作業だと感じる。器にも、作り手側の想いって入ると思うんだよね。その想いって手に取る人にも伝わると思う。

そうですね。お客さんがどんな風に感じるんだろうっていうのもキャッチしたいので、週末にまた店に遊びに行きたいと思います。

ー ぜひ!実際お客さんと話したら、より想いが込もった器が作れるようになると思うし、素晴らしい出会いもたくさんあると思うので。

▶︎目指す人間像

ー では最後の質問。鈴木くんはしずくにいて、神山にいて、これからどんなひとになりたいって思う?

〇〇さんみたいにって、具体的なモデルはないですけど、調和の取れた人がいいと思います。
目の前の今に没頭できる人でありながら、将来のことも自分から遠い範囲のことも考える余裕のある人。

僕が目指す職人像でもあるんですけど、例えばSHIZQの鶴シリーズのように、赤と白の部分、一見対極にある色をどちらも捨てずに両立させていること。

よく言う言葉だと「視野が広い」、包容力のある人とも言うのかな。そういう人間でありたいです。

見える範囲が広いと選択肢も増えるよね。

そうだと思います。自分の意見を持ちながらも、反対派の意見を聞けて、その人が主張する権利をちゃんと守れる人。その上でまた考え直せる人。

ー 頑なにならずにね。

はい。木を扱う仕事はもちろん林業と密接に関係している。

政治も関わってくるし、色んな人の利害を想像していかないといけない中で、多分怒ったり葛藤することもあると思います。

そういうときにYesとNoの意見をどっちも踏まえて、自分が納得できる選択をしていきたいです。

 

木のコップを持つ青年
SHIZQの鶴カップを持ちながら目指す人間像について語っています

ー たしかにすごく大切なことだね。気持ちって凝り偏ってきたりするから、年齢を重ねていくごとに。色んなものを守るために偏っていったり、それは自分も含めて。地元の方がお店に来てくれた時に「神山の山を綺麗にしてくれてありがとう」って言ってもらったことがあるんだけど、その時はびっくりしたし、感動した。こういう言葉をいただいたことは忘れてはいけないと思った。

それは嬉しいなぁ。僕もお店で偶然会った人から「地元で『食べれる森づくり』をテーマに計画していて、しずくの活動から刺激をもらった」と聞いた時はワクワクしたし、嬉しかった。全国各地で同じような動きがジワジワと広がっていってほしい。

どんな些細な仕事でも、どこのどの人に伝わるか分からないし、誰かの何かのきっかけになるかもしれない、と改めて思います。

ー 本当だね。これからも鈴木くんにエールを送り続けるし、100年後も神山の山や川が美しくあるよう、一緒にSHIZQを継続し、守っていきましょう。

いきましょう!



このインタビューを通してあらためて鈴木くんは賢明な人だと思いました。

どんなことにも興味を持って、知ること、学ぶことを心の底から楽しんでいる。
それをとてもナチュラルに且つ積極的に。

色んなところにアンテナを張って感じ取り、そしてその感じたものに対して「正直」に生きている。

私はしずくに来て2021年秋に丸2年が経ちました。
正直、最近は新しいことに挑戦することに臆病になっている自分がいました。
ですが、彼との対話が楽しみながらチャレンジするということを、思い出させてくれました。

3年目の今、日々を慈しみ、観察し、心動いたことを確かめながら、挑戦することを忘れずに過ごしていきたいと思います。

 

木製品を作成する職人