こんにちは、神山しずくプロジェクトの渡邉です。
今日は秋分の日。昼と夜の長さが同じくらいになり、これから冬へ向かう入り口となります。
半年前、春分のころに募集をはじめた新たな職人候補さがし。
予想外の反響に驚きながらも、時間をかけ無事に新しい仲間をSHIZQに迎えることができました。
今日は、募集前からの1年にわたるストーリーと、その過程で見えてきたものをみなさんにお伝えしたいと思います。
topics
・しずくプロジェクトが公益性のある事業だと認められました
・現役大学生からの応募…!
・馴染むまでのスピード感
・時代が変わってきた感覚
AIや機械化・後継者問題があらゆる業界で叫ばれる現代において、
手仕事の職人をゼロから育てるというのは、言葉以上に険しい道のりです。
仕事は生活の糧。理想や想いだけでは立ち行きません。
それでも暮らしを根本から変え、神山で生きる私たちには譲れないものがあります。
「自分たちが正しいと思う道を進むこと」。
耳触りはよくても実行にはいろいろな心配や意見も生まれます。
周りからだけでなく自分たちの内側からも。
それでも、と進み続け、いくつもの課題を乗り越え、気づけばプロジェクトは9年目。
弱冠23才の若者を迎え、しずくは新たなステージへと踏み出しました。
しずくプロジェクトが公益性のある事業だと認められました
職人候補募集をはじめた大きな決め手は、
地域おこし協力隊制度をしずくプロジェクトで活用させてもらえるという快挙!でした。
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。(総務省HPより)
ものづくりの現場で職人をゼロから育てる。
それは、商品を生み出せるようになるまでの数年間を、他のメンバーで支え育てる気の長い作業です。
小さな会社にとっては、それはもう限りなく至難の技。
4年前、藤本を受け入れた時すでに各地でこの制度を活かした伝統工芸の復興活動があり、
ぜひしずくでもと考えましたが実現には至らず。
そんな過去もありながら、ふたたび神山町役場に相談を持ちかけました。
背景には今春、完成したSHIZQ STOREの開店予定がありました。
「このお店がオープンしたら、近い将来きっとイメージしていた活動規模になる。
それには絶対的にもう1人の作り手が不可欠。」
しかし、この制度のもと民間企業で地域おこしの隊員を受け入れ活動してもらうには自治体から認められる必要があります。
神山町にとって必要かつ公共性が高く将来にわたり発展の可能性が感じられる事業であることが条件となります。
神山では今回がテストケースとなり、そのひとつに選んでいただいたのです。
しずくプロジェクトは、神山の山と水を守る活動として一企業が行なっているものです。
非営利団体にはせず、利益追求主義にもしない。
でも、みんなのためになることが自分たちや未来に繋がっていく。
そんな理想を描いた活動だからこそ、町から認めていただけたことは、何にも代えがたい勲章だと感じた出来事でした。
現役大学生からの応募…!
心強いバックアップを得た一方で、枠組みを使わせてもらうことは、
その枠に合わせる難しさも出てきます。
一番の不安は、募集期間内に求める人物が本当に現れるのか?
いくら仕組みがよくても肝心の中身が伴わなければ意味がありません。
そんな都合よく見つかるかしら、、と悶々とする日々。
敢えて求人サイトは使わず、いつも通りの発信のみで募集を開始。
しばらく問い合わせすらなく「無謀だったかな…」と思いながらも新店舗オープンに慌ただしい日々を送っていました。
2週間が経つ頃、ふと一通のメールが。
タイトルは「職人候補応募の件」!!!
期待を胸に開封すると、送り主は兵庫県の大学4年生。
募集中の初夏の業務開始には間に合わないなぁ、、と思いながらも
書類を読むと、マジメさがにじみ出る文章。
一見、しずくとは縁遠そうな経歴や木工に興味を持ったきっかけなど、
予想以上に興味を引かれオンライン面談をすることに。
文章通りのとてもマジメな好青年・鈴木は、
来春の卒業を待たず、学業が落ち着く秋から神山に移り住み、しずくで働きたい
というビジョンを語ってくれました。
正直なところ、単位ギリギリ入社式前日まで遊び倒していた私には、
到底思いつかないナナメ上からの申し出だったのです。
馴染むまでのスピード感
結果的に、その青年・鈴木が晴れてしずくの2人目の若手職人となるべく9月初旬、神山へやってきました。
彼はほとんどの学業を前倒しで終わらせ、私たちは初夏からの希望をずらし、
お互いに歩み寄る形でスタートの季節を決めました。
彼が来てから約2週間。
すでに多くのことを実践のなかで学び、もう製作の一端を担っています。
古民家を借り、ご近所さんに野菜のおすそ分けをいただき、
休みの日にはスタッフと釣りに出かけ、空いた時間にはストア周りの草刈りを。
すっかり私たちと変わらない生活ぶりに、驚きとともに安心できる有難さを感じます。
このセンセーショナルな彼の移住ストーリーには、
いくつかの大切なポイントがあります。
・採用を決めるまで、決定後も何度も神山へ足をはこび、お互いのイメージを膨らませた。
・仕事だけでなく生き方・考え方を互いにシェアしミスマッチがないか確認していった。
・私たちに移住受け入れのノウハウが蓄積されてきた。
・鈴木も、家族・学校・アルバイト先などそれぞれに理解してもらう努力と行動をしっかり取った。
・新人の受け入れ体制を、しずくが作れていた。
当事者である鈴木、受け入れ側である私たち、またそれぞれの持ち場のスタッフ一人一人が、
このチャンスの大きさ・大切をさをしっかりと受け止め、
最良の行動を選んでいったことで、今回のスムーズな経過が実現できたと強く実感しています。
要所要所には、神山町役場をはじめ、地域の方々の私たちへの前向きな理解や惜しみない協力があることは言うまでもありません。
時代が変わってきた感覚
県内の高校生・日本有数のものづくり企業の本丸で活躍されている方・
アーティストさんなど、じつは幅広い応募がありました。
しずく立ち上げ当初の、吹きすさぶ風当たりからは
まったく想像もつかない反響。私たちが一番驚いています。
流行りの単語やキャッチーな言葉では、説明できないプロジェクト。
たくさんの文脈が必要で、受け取り手の懐の深さに救われ続けて今日があります。
手軽さ分かりやすさが必須だったあの頃から、
少しずつ世の中は変化して、
風向きが変わってきたと感じたのは数年前。
鈴木からの応募で、とにかく最初に嬉しかったのは
「届いてほしい人たちに、ちゃんと私たちの想いは届いている!」、
そう確認できたこと。
大切なのは物量ではなく、届ける質にある。
スマートにできなくても、私たちが正しいと思う道を、同じように正しいと信じている人が必ずいる。
その大切な人に向けて、ていねいに真摯に言葉を紡いでいくことが、しずくを繋いでいく大切な手段だと再確認できました。
SHIZQ STOREは、私たちの描いた理想が毎日のように形になって、笑顔と喜びあふれる唯一無二の空間になっています。
応えきれないほどのご要望に追いつくためにブラッシュアップを重ね、お客さまに日々成長させていただいています。
まさに追い風まで感じるこの頃。
だからこそ、変わらずに一歩ずつ進むためにもしっかり踏みしめ、大切に大切に進んでいきます。
向かい風の中で踏ん張りながらも、自信なげに歩を進めていたあの頃とは、真逆の心持ち。
今は、プロジェクト自体の成長に私たちが遅れないよう必死です。
しずくの職人として鈴木が一人前になるまで3年を想定しています。
杉も人も、自然の速度で成長し、だからこそ気づけば大きく変化しています。
先輩職人の藤本もそうでした。
時間はかかりますが、たくさんの方のご理解のおかげで着実に、
「自分たちが正しいと思う道」を進むことができています。
これからもどうか、その道のりを同じ目線で見守っていただけたらと願うばかりです。