山の見方が変わる! 現役の林業従事者が「しずく」の環境改善ワークショップに通う理由(水源涵養WS vol.7 レポート)
2026年9月3日
こんにちは。神山しずくプロジェクトです。
9月に入り、ここ神山では夜になると鈴虫の鳴き声が聞こえるようになりました。「りーん、りーん」と鳴く鈴虫の美しい音を聞いていると、いよいよ秋の気配を感じます。
さて、しずくで2024年から定期的に開催している「水源涵養力を育む環境改善ワークショップ(以下、WS)」、前回の第7回目は「しがら体験編」と題し、生態系の回復に寄与する「しがら」作りを行いました。
毎回、全国各地から多様なバックグラウンドを持つ方々がご参加くださり、時には海外在住の方が参加されることも! また、何度も足を運んでくださっているリピーターさんもおられます。今回のレポートでは、そんなリピーターさんの中のお二人、岡久弘之さんと相原佑子さんへのインタビューをお届けします。
実はこのお二人、普段から「林業」という形で日常的に山に入り、木や森と向き合うお仕事をされています!現場の最前線にいるプロフェッショナルである彼らが、なぜ「しずく」の環境改善WSに参加し続けているのか。
そして、参加したことでどのような変化があったのか。
お二人のリアルな言葉をもとに紐解いていきます。

「山の環境を良くしたい」
効率化の現場で葛藤しながらも、より良い選択をしていく
— 岡久弘之さん
徳島市出身の岡久弘之さんは、昼は徳島中央森林組合に所属して神山町内の木を伐採する業務を担い、夜は市内でマデイラワイン専門店 casetta.を営むという異色のパラレルキャリアを実践されています。
そのお仕事ぶりを聞いていると「いつ休んでいるのだろう?」と思ってしまいますが、そんな岡久さんは、かつては自衛隊の隊員でした。自衛隊時代に災害派遣やボランティアなどを経験したことをきっかけに「災害が起こってからではなく、災害を予防する活動がしたい」と考え、約3年前にとくしま林業アカデミーを経て林業の世界に飛び込みました。
また、「アカデミーに入る少し前に、今の日本の山の現状や獣害問題とかを知るきっかけがあって。例えば、鹿や熊の被害が大きく取り上げられてるけど、そもそも何でそんなことになったのかと言えば、山が荒れてしまったから。そういう面から見ても、山に踏み込んでみようかと。」
しかし、実際の現場で直面したのは、極端な人手不足と斜陽産業とも言える過酷な現実でした。さらに岡久さんが危惧しているのは、現在の林業が抱える構造的な問題です。
「どうしても効率的な目線で作業せざるを得ない組合では、生き物の多様性など基本的に配慮するのが難しいんですよ」と岡久さんは語ります。
組合の仕事は「山から木を出す」こと。作業の視界を確保するためとはいえ、効率性を優先して本来は残しておいたほうがよい広葉樹(雑木)まで切ってしまうことがあるそうです。その結果、山は杉や檜(ヒノキ)ばかりの単一な森になり、新芽は鹿に食べられ、場所によっては土砂崩れなどの災害リスクが高まってしまうと言います。

そのような仕事に就く岡久さんですが、しずくのWSでは「山の環境を緩やかに良くしていく活動」について学んでいるそうです。
重機を使わず、手作業でゆっくりと山を直していくWSでの学びは、すぐに組合の仕事全てに適用できるわけではありません。それでも、WSで得た知識は積み重なり、岡久さんの中に確かな変化をもたらしています。
「今は、作業の邪魔にならないところにある雑木は、できるだけ切らずに残しておこうと考えるようになりました。もちろん、安全面は担保した上でですけど、せっかく鹿に食われない大きさまで育った木だから、なるべく置いておいてやろうって。
同じ仕事でも、やり方をこれまで以上に考えるよう意識しています。」
効率が求められる現場で複雑な判断を増やすことは、これまで以上に負荷のかかることだと思います。それでも、岡久さんが残した木々がきっとこの先、神山の杉山で大切な役割を果たすことになるでしょう。
「多少の足掻き程度ですけど」と謙遜する岡久さんですが、WSで得た視点が林業の現場で反映されていることは、私たちにとっても大きな希望となりました。

「枯れゆく木にも意味がある」
画一的な価値観から多様な森の美しさへ
— 相原佑子さん
相原佑子さんは大阪出身、有機農業に携わった後、2020年に神山町へ移住し林業アカデミーへ入学しました。現在は、徳島県南部に位置する海部地域の森林組合で「造林班」に所属し、地拵えや植林、鹿よけネット張り、下刈り、間伐など、山を育てる業務に従事しています。
幼い頃から自然や山登りが大好きだという相原さん。
しかし、現代の林業に対しては強い疑問と危機感を抱いています。
「自然の理にかなっていない無理な植林が行われ、鹿よけのプラスチックネットが山に大量に放置されてゴミになっている。今の林業の視点は非常に狭く、いかに木材が取れるかということに限られてしまっている」と指摘します。
豊かであるはずの山が、自然の摂理を無視した「人間の都合」で扱われている現状。そんなシステムに加担しているのではないかという葛藤を抱え、相原さんは「本来の多様な生態系を取り戻すためのアプローチ」を学ぶため、生物多様性をテーマにした森林ツアーや環境改善WSに参加しはじめます。
「とにかく私は山が好きで。その大好きなものが良い形でいてもらうには何をしたらいいのかなってすごく探して」という、とてもシンプルな想いが原動力になっているそうです。

参加後、相原さんは自然に対する見方がさらに広がったと言います。特に印象的だったのは、WSの講師である坂田昌子さんの言葉でした。
「以前の私は、老木や枯れかけた木を見ると『危ないから切るもの』『あまり美しくない』と思っていました。でも、『朽ちていく木にも動物が住み、苔が生え、いろんな命が利用して受け継がれていく。これが良いのよ。』と坂田さんから教わったんです」
岩の上に生える木を「かわいそうな木」と思っていた価値観が覆り、すべてが複雑に絡み合いながら息づいていることの豊かさに気づかされたそうです。
相原さんは「もともと、子供の頃から大勢の中で画一的なことを求められるのが苦手でした」と振り返ります。みんな判で押したようなことをさせられる感覚や、ニュータウン育ちへの反発もあったとか。
「でもそうやって育ってるから、本当の意味でいろんなもの全部が息づいてるっていう感覚をなかなか持てなかったんだろうと思っていて。それが坂田さんの話を聞いてると、どんどん呼び覚まされる感覚。坂田さんの話からは、すべての生き物への愛が伝わってくる。ここに来て楽しいなって感じてます」
森が大好きな彼女にとって、環境改善の現場は、自然へのまなざしを通じて自身や世界を捉え直す大切な気づきの場となっているようです。

おわりに
岡久さんも相原さんも、現代林業の厳しい現実や矛盾の真っただ中に身を置きながら、「森を良くしたい」「自然の摂理に寄り添いたい」という純粋な想いを胸に、しずくのワークショップに足を運んでくださっています。
機械を使った生産性が求められる大規模な現場のルールをいきなり変えることは難しくても、お二人のように「知ること」「視点を持つこと」で、目の前の木一本への接し方が変わり、それがやがて豊かな森を育む小さな一歩に繋がると、お話を聞いて胸が熱くなりました。
さらに、インタビューの中で「これからは、人間が管理する森だけではなくて、本来の自然に戻していく場所も増えていく。だから、そういうことができる・考えられる人間が絶対に必要になっていくし、このWSで気づくことがいっぱいある」という、現場を知る人ならではのコメントもいただきました。
効率や分かりやすい正解だけを求めず、戸惑いながら、迷いながら、自然と向き合う。 それは時に、自然だけではなく日常をも変化させるきっかけにもなるようです。
しずくの環境改善WSは、そんな想いを共有し、一緒に実践していく仲間と出会える場所です。
これからも、森と人とが健やかに共存できる未来を目指して、参加者の皆さんとともに一歩ずつ活動を続けていきたいと思います。

次回の環境改善ワークショップは9月19日(土)・20日(日)!
参加枠が少しずつ埋まってきています!
前回から引き続き、「しがら組み」がテーマです。
たくさんの新しい出会いと気づきが生まれることを楽しみにしています!
WSイベントページはこちら





