父が残した山の理想と現実。その後…

こんにちは。神山しずくプロジェクトです。

水が減ってしまった山林環境を改善するワークショップの第3回目が今週末となりました。今回は、古民家の裏にある常緑樹林の手入れをしていきます。かつては薪や炭の原料を生産していた林。過去には、山をもつ目的や理由がそれぞれにあったことを感じます。

今回は、「山主さんの現実」について、とりわけ親から山を引き継いだ方のリアルなお話を紹介します。しずくプロジェクトを初期から支えてくれている地元の外部メンバーのお話です。

国土の3分の2が森林である日本では、意外と多い”山持ちさん”。
一方で、実際に山を持っていない人にとっては、イメージが持ちづらいのも事実。なかなか知り得ない山主さんの世界をぜひご覧ください。

冬の神山こんにちは。神山しずくプロジェクトの起ち上げ時から折々にお手伝いしているライターのイマと申します。 

徳島市在住ですが神山町内に父の所有する山があり、前回は「山を持つことの理想と現実」について書かせていただきました。今回は、その続編となります。

Topics
■山に固定資産税はかかるのか?
■相続登記の手続きへ
所有している山に関する調査について
親を見送った経験から、新しい供養のかたちの提案へ
■父の山が私にもたらした、もう一つのもの

■山に固定資産税はかかるのか?

前回のブログ公開後の2022年5月、父が鬼籍に入りました。老衰でしたので安らかに見送ることができました。はじめて喪主側の立場で葬儀を経験し、わからないことだらけでした。諸々の手続きを終えて落ち着いた頃にやっと手をつけたのが相続登記です。

父が所有していた自宅に加え、山の登記を変更するにはどうしたらいいのか?について調べ始めました。
ぼんやりした記憶で、山には固定資産税がかかっていたような気がしていました。
ずっと以前に、固定資産税(2000円くらい?)が記載された公的書類を見たことがありました。
その記憶から、山に固定資産税がかかっていると思い込んでいましたが、そういえば、ここ数年はそのような書類をみたことはありません。

 では、山の固定資産税は「ゼロ」ということ? いつの間に?

 不思議に思い、ネットで調べてみました。すると、「山林の固定資産税評価額が30万円以下であれば固定資産税は課税されない」という記述を発見。父の山はいつの間にか評価額が下がり、固定資産税が課税されなくなっていたのです。

固定資産税の負担はないことですし、私が父の山を相続することにしました。 山の相続

■相続登記の手続きへ

さて、登記といえば、司法書士などの専門家に高い代金を支払って依頼しないといけないという思い込みがありました。しかし、友人が「パソコンで書類を作れたら自分でもできるよ」と教えてくれたので、自分でやってみることに。

まずは、法務局へ相談。相談窓口を予約すると、登記のやり方を教えてくれる仕組みがあります。
前日までに電話で予約し、ダウンロードした書類をわかる範囲で記入してから持参しました。相談窓口では、書類の書き方や必要書類について教えてもらうことができました。
(土地・建物を相続登記したときの詳細はこちら https://itene-web.com/sozoku_toki/

 山に関しては、神山町の役場で課税証明書をもらう必要がありました。課税証明書は郵送で依頼もできるようですが、わたしは神山町役場へ出向き、手に入れました。
諸々の必要書類を用意して、法務局へ提出。少し修正があったので何度か法務局へ足を運びましたが、無事に自宅と山の登記を変更できました。

このとき、法務局の壁に「相続土地国庫帰属制度」のポスターが貼ってあるのを見かけました。
「いらない土地を国に寄付できる」ということでしょうか?
詳細をじっくりみてみると、手数料に加え、負担金が何十万円もかかかるようです。
うちの山は固定資産税ゼロ、とりあえず維持費はかかってないので、この制度を使って国に寄付するほどではなさそうです。
今回、とりあえずは山を私が相続しますが、いつかは私の子が相続する時がきます。その際に山の場所がわからないというのは困ったものです。私の代で、できるだけのことはしておきたいです。

冬の神山

■所有している山に関する調査について

だいぶ前の話ですが、神山町役場から封書が届きました。
開封してみると、所有している山についての意向調査でした。
いくつかの選択肢が用意されていましたが、「所有山林の場所が不明」のところにマルをして返信しておきました。

 それからずいぶん時間が経ち、忘れかけた頃に神山町役場からまた封書が届きました。

「先に実施した意向調査について、ご協力頂き有り難うございました。 その中で「所有山林の場所が不明」とのご意見が有った件についてお答えいたします。
貴殿の所有している山林の周辺は、国土調査や山林境界明確化事業が出来てない所ですので、町としては正確な場所は把握しておりません。
現状では、別紙(林地台帳明細)林地台帳図と航空写真をお渡しする事だけしか出来ませんので、その資料を基に、親戚の方や隣接者・地元精通者等に正確な場所や境界を、確認しておく事をおすすめいたします。
今後、町としても山の境界明確化事業を進めてまいりますので、その節はご協力くださいますようお願いいたします。」とのこと。

 結局、所有している山については、自分で調査する必要があるのですね。そのとき添付されていた航空写真というのは、こちら。これではまったくわかりませんね。相続した山の航空写真2025年冬、神山町役場に電話で問い合わせてみました。山林の調査には「地籍調査」あるいは「山の境界明確化」の2つがありますが、私の所有している地域については、まだ予定がわからないとのことでした。
 どちらの調査であっても現場に出向き、隣接した土地を所有する人と境界について確認しあうのだそうです。もしかしたら、隣の土地を持っている人が境界を知っている可能性もあると教えてくれました。

土地の境界って、実は人と人が決めるものなんですね。公的なところに、何か明確な資料があるのだろうと想像していましたが、違ったようです。いつか、隣の土地を持っている人を尋ねていくべきなのかもしれません。 遠憶イメージ写真

■親を見送った経験から、新しい供養のかたちの提案へ

ところで2024年の春から、私はひとつの事業を始めました。「遠憶 祈りの小箱」と名付けた供養箱のネット販売です。
父を見送ったあと、仏壇屋へ足を運んではじめて“家に置きたくなるような仏壇がない”ということに気付きました。置く場所がない、インテリアに合わないことに加え、仏壇のない家で暮らしていたため仏具や掛け軸に違和感がありました。
ならば、宗教を伴わずに自由に祈る、新しいかたちの供養箱を世に送り出すことができるのでは?と考えたのです。
それから2年、「遠憶 祈りの小箱」は地元の新聞にも紹介され、希望される方々のお手元に届きはじめています。
例えば、ある70歳代の女性はご自分のために購入。お寺との関わりを持たずに自分を供養してもらいたいので、このような供養箱を探していたと話してくれました。
今後さらに、既存の仏壇や供養のあり方に違和感を持つ人は増えていくことが想像されます。5年後や10年後のために、「遠憶」の事業を継続して育てていきたいと思っています。

昔の山の写真

■父の山が私にもたらした、もう一つのもの

ネット販売の仕事をしていた私でしたが、しずくプロジェクトとの出会いがなければ、「遠憶」の事業はスタートしなかったと思います。
しずくプロジェクトが起ち上がるのを見てきましたし、しずくを通して木工職人さんや漆職人さんとも交流を重ねていました。その経験があったからこそ「遠憶」を起ち上げる決心ができたのだと思います。

 まず相談したのは、しずくプロジェクトのスタート時に活躍した木工ろくろ職人さんでした。
彼に紹介してもらい、箱物の得意な木工職人さんに出会うことができました。合成された木質ではなく、本当の無垢材だけの供養箱を、という希望が叶いました。
また、しずくプロジェクトで活躍していた漆職人さんには若々しいペールブルーなどの“拭き漆仕上げ”を提案してもらったり、木工ろくろ職人さんには小さな花立の制作を依頼しています。
準備段階では家族の協力も得て、息子をモデルに商品写真を撮ったり、夫に相談したりしながら事業を起ち上げました。
思いおこせば、父の山がきっかけでしずくプロジェクトに出会い、しずくプロジェクトを通して得た経験が「遠憶」の事業へとつながりました。
父は、山の木でいつか子供が家を建てることを想像したようです。それは叶いませんでしたが、いつのまにか私は杉の家を建てたり、山を歩いたりしています。

山や木を大切に思う気持ちが私の根底で育ち、それが無垢の木で祈る「遠憶」の供養箱へと結びついたのかもしれません。
父の山が思いがけず私を「遠憶」へと導いたように、子どもや孫世代の人たちにも、「遠憶」を通して山や木を思う気持ちが伝わることを願っています。 

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