こんにちは、神山しずくプロジェクトです。
今回は、9月13−15日に行った「水源涵養力を育む環境改善ワークショップ」の第二弾レポートをお届けします。記事の後半では、ワークショップ開始から現在までの約5ヶ月間で、どのような変化が起こっているか、Before / After を交えながらご紹介します。
ぜひ最後までご覧いただけると幸いです。
Topics
・2回目のワークショップで取り組んだこと
・U字溝排水に代わる「せせらぎ作り」
・水源涵養力を育む要「しがら組み」
・渇いた果樹畑の「有機保水処置」
・環境の変化について(Before / After )
・しがらにキノコが生えた!
・スダチの実が増えた!
・外側と内側、小さな変化に目を凝らし続けること
・次回ワークショップ予告
2回目のワークショップで取り組んだこと
今回のワークショップでは、この3つの作業を行いました。
① U字溝排水に代わる「せせらぎ作り」
② 水源涵養力を育む要「しがら組み」
③ 乾いた果樹畑の「有機保水処置」
①と②は第1回目のワークショップ 時に途中まで進めた箇所です。今回はその続きからスタート。③は初めて行った作業で、今年実りがよくなかったスダチの木に手を加えました。それぞれ解説していきたいと思います。
①U字溝排水に代わる「せせらぎ作り」
ワークショップ開催地にある「養樹畑」のあたりは、谷筋の水が集まる場所になっています。ここには、ごく一般的なコンクリートのU字溝がありましたが、その影響で降った雨がすばやく排水され、地面が乾燥して固くなるという問題が発生していました。
これに対して、水や空気の動きを再び戻すための有機環境土木を実施。U字溝を撤去したあとは、石と藁、落ち葉を使って「せせらぎ」を作りました。
せせらぎ作りは、まさに「体力仕事」と言っても過言ではありません。
コンクリートを斫(はつ)る、砕いたコンクリート片を運び出す、泥土を運び出す、資材を持ってくる、藁や石を並べていく…などなど、全身を使って作業にあたります。
それだけでなく、重い石をあらゆる角度から眺めて、どう置いたら収まるかを想像して試行錯誤する「頭の筋力」も試されます。きちんと詰められると、まるでパズルのような気持ちよさもある作業でした。
まさに力を合わせた大仕事でしたが、水を留めて活用したい「めぐる谷」にとって、「”排水”溝」を取り去り、自然の流れを取り戻すための造作ができたのは、とても重要なポイントです。
こちらの完成図は、後ほどBefore/Afterの写真コーナーで詳しくご紹介しますね。
②水源涵養力を育む要(かなめ)「しがら組み」
「せせらぎ作り」と同様に、第1回目ワークショップの続きに取り組みます。
初参加の方は、しがらマスターのレクチャーを受けてから、いざスタート!
リピーターの方は、前回自分が担当した箇所を中心に手を動かしました。
実際にやった方はご存知かと思いますが、「しがら組み」は非常に奥が深い!
その理由は「不規則的」な構造を作るところにあります。しがらの高さなど、ある程度の目標値はあるのですが、作り上げていくときに明確な法則は存在しないのです。
大事なのは、“柔ら堅い”「しがら」を作ること。
「しがら組み」では、枝木をしっかりと絡ませていきます。このとき、枝同士にテンションをかけるように組み合わせるのがコツ。「しがらむ、しがらみができる」という言葉通り、簡単には外れない状態を作ります。その次に、小枝の間に落ち葉をぎゅうぎゅうに詰めていきます。そうすることで、人が上に乗っても壊れないほど頑丈な骨組みが出来上がります。興味深いのは、落ち葉の間に小さな隙間が存在するため弾力があることです。“柔ら堅い”というのは、「しなやかな強さ」を表す状態とも言えるかもしれません。
そのようにして出来た「しがら組み」は、小さな隙間を雨水や空気が通り、菌などの微生物が活動できる環境を作り上げます。
坂田さんはよく、「自然は、複雑であればあるほど(生き物にとって)良い」と表現します。
「しがら組み」では、いかに複雑さを生み出すかが問われます。
現代社会では、何らかの規則性に基づいて成り立っているものが多いですが、「しがら組み」はむしろその法則と逆のような成り立ちともいえるでしょう。これは個人談ですが、「しがら」を組んでいると、いつもと違うモノの見方や精神状態に入る感覚があります。それは、普段とは違う脳の使い方をしているからなのかもしれません。一筋縄ではいかない「しがら組み」ですが、回数を重ねるうちに、自分の中でしっくりくる感覚が、ほんの少しずつですが芽生えてくるのも面白かったりします。
ちなみに、せせらぎ作り同様に「しがら組み」もいろんな作業工程があります。
「しがら」の材料になる小枝の調達をしたり、実際それを使えるように、枝先の葉っぱを取り除いたりと、やることはいっぱい!こちらもみんなで手分けして作業を行いました。
③渇いた果樹畑の「有機保水処理」
もともとの予定にはありませんでしたが、酷暑で弱った木々を見かねて、新たな作業をすることに!それが「有機保水処理」です。
②の「しがら組み」の谷側にある果樹畑には、スダチの木が植わっています。先に触れたように、ここは土地全体が乾いています。さらに今年の夏は、雨も降らず猛暑続きでした。その影響で、神山町全体のスダチの実りが悪かったことはもちろんのこと、この果樹畑も実の付きがよくありませんでした。
山際から落ちてくる水を「しがら」で受け止める状態になったものの、以前としてスダチの木はあまり元気がなさそうでした。ということで、スダチの木に少しでも水分を与えるため、設備のいらない「有機保水処理」をすることに。
やり方は、3ステップあります。
① まず木の半径約1メートル範囲の土の表面を、石や枝で少しほぐします。そうすると、白く細い根っこが出てきます。これがスダチの木の根の先端です。ここから水と栄養を吸い取るそうです。
② 次に、ほぐした土の中に腐葉土と細かく切った藁を入れて、スダチの根っこを傷つけないようによくかき混ぜます。
③ 最後に、混ぜ込んだ土が雨水とともに流れて行かないよう、谷側に丸太で囲いを作り完成です。
難しい道具や、化学肥料などは一切必要ありません。自宅に樹木がある人は、手軽に応用できると感じました。興味のある方は、ぜひ一度ワークショップに参加して、現場を見にいらしてくださいね。
以上が、今回のワークショップで行った作業でした。
期間中は天気の変化はありつつも、おおきな怪我や事故もなく、無事に開催することができました。お集まりいただいた皆さま、ありがとうございました!
環境の変化について(Before / After 比較 )
とはいえ、実際にそんな変化なんてあるの?と思われる方もいらっしゃると思います。
ここでは、ワークショップを行う前と現在で、現場がどのように変わったか写真とともにご紹介します。
まずは、「せせらぎ」を作った場所です。
Beforeの写真は、2025年5月に現場の下見で撮影したものです。草が覆い茂ってわかりづらいですが、真ん中にU字溝が通っています。ここにあった全長約25mに及ぶコンクリート溝を全て削り、石敷きに変えました。
石敷き箇所を、真上のアングルから見てみましょう。
After写真を見るとわかるのですが、石の間には落ち葉が詰められています。U字溝では全ての水を下流へと流しますが、このせせらぎは石の隙間をゆっくりと水が落ち地面に沁み込む構造になっています。今年9月の大雨の際には、このせせらぎの上を綺麗な水がさーと流れ、耳を澄ますと「ぽこ」「ぽこ」と音がたっている様子が確認できました。水や空気が、石積みの間を通って土壌を出入りしている証拠です。
こちらは水の取り口の部分。
ワークショップ前までは、分厚いコンクリートでできた井筒がありました。
ここも水と空気の流れを止めていたコンクリートを全て撤去!石積み経験者の方々の多大なるサポートによって、こんなにも素晴らしい石積みの集水口ができあがりました!
現在は、井筒のなかに澄んだ水が溜まっている様子を観察することができます。
ワークショップ中はじっとしていたミズスマシが機嫌よく泳いでいたり、彼らの餌になるボウフラがふよふよと浮かんでいたりと、生き物にとっても心地よい環境になっているようです。
次に果樹畑の「しがら組み」の変化を見てみましょう。
Before写真を撮影した2024年5月時点では、山際の斜面は乾燥した状態でした。ここに、全長約30mほどの「しがら」を組んだ様子がAfterの写真です。
こちらは横の角度から見た「しがら組み」です。
これまで勢いよく地表を流れていた雨水は、しがらを通ってゆっくりと地面に浸透するようになります。地表が安定することで、植生が豊かになり、乾燥も防ぐことができるようになるそうです。この写真からはわかりづらいですが、Before写真撮影時よりも斜面全体がしっとりと、湿気を帯びた様子でした。
しがらにキノコが生えた!
実はこのビフォーアフターの撮影にいった時に、大きな発見がありました。なんと、しがらに生えるキノコ群を発見したのです!
しがら組みの資材にコナラの木を使っていたので、ナラタケもしくはナラタケモドキでしょうか?ここにキノコが生えたということは、しがらの内部に湿度があり、菌糸を広げて繁殖しているということでしょう。たくさんの人と一緒につくった「しがら組み」、これからどのように変化していくか、経過観察が楽しみです。
スダチの実が増えた!
保水処置ができなかった木ではスダチの実は小さく、収穫には適さないサイズの物がぽつぽつとあるだけ。一方で、保水処置を施したスダチの木には、効果が目に見えるものが数本ありました!水の通り道に位置し、かつ処置をした木には、他の木と比べるとあきらかに多く実が育っていました!
もちろん全体的には例年よりも少ない量ではありますが、それでも処置により水を得て、次の世代へつなぐための実を肥やしている姿に、生き物としての木の意志が感じられました。
外側と内側、小さな変化に目を凝らし続けること
キノコもスダチの木の変化も、遠くから見ているだけでは、一見わかりづらいものです。ただし、その場所に近づきじっくり観察してみると、実は小さな変化が起こっていることに気付かされます。目の前に広がる当たり前の景色も、意識の解像度をあげることで、見える世界が変わることをジワジワと感じました。
めぐる谷の「水を育む力」が少しずつ取り戻されていくのと同時に、参加者のみなさんや私たち自身がもつ内的自然もまた、少しずつ育っていっているのではと感じています。目の前の景色という外側の世界と、その変化に気づく自分自身の内側の変化、その両方を、これからも継続的に観察し続けたいと思います。
次回ワークショップ予告
次回は、2025年2月28日(金)〜 3月2日(日)の3日間で開催します!
3回目のワークショップでは、今回の続きに加えて「植樹」を行う予定です。冬の神山は、夏場とは違った景色を私たちに見せてくれると思います。3日間のうち、1日もしくは2日のみの参加も問題ありませんので、ぜひご参加ください。庭や山の土地などを持っていて、この知見を自分の暮らしに取り入れたい方も必見ですよ。