漆の貴重さをさらに実感!「漆掻き」見学レポート

こんにちは。
神山しずくプロジェクトの渡邉です。

季節はすっかり秋。これからの時期にぴったりの、深みのある色合いが人気のSHIZQ「亀シリーズ」と「亀八シリーズ」は、天然の漆で仕上げられています。

漆とは、漆の木から採取した樹液のこと。
その樹液を採取することを「漆掻き」といいます。

しずく亀八ぐい呑みで酒を吞む
あでやかな艶が人気の亀八シリーズ

江戸時代から明治時代にかけて全国でも漆掻きが盛んでしたが、今ではすっかり減ってしまい、
岩手県二戸市など、ごく一部の地域で守られているようです。

 

そんな今では珍しい漆掻きですが、どんな風に採取されているのでしょう?
皆さん、ご覧になったことはありますか?

わたしは以前、ゴムの木から滴る液体を容器にたっぷり集めるシーンを見たことがありますが、
そんな感じなのでしょうか?

 

 

実は先日、徳島県のおとなり、香川県で漆掻きの様子を見学させていただきました。
まさか四国で漆掻きを見られるとは思ってもいませんでしたので、とても貴重な経験でした。

今日はその様子をご紹介します。

 


 

 

香川県で漆が育てられている理由

香川県では、江戸時代に高松藩が漆芸を奨励したため、
お椀や重箱などの漆器の生産が盛んに行われていました。

今でも県内各地で多くの漆芸作家が活動しており、
香川県漆芸研究所では香川漆器の伝統技法を伝えています。

 

香川県内では漆の木を植える活動も始まっており、
その中のひとつ、NPO法人さぬき漆保存会の臼杵春芳さんは、
山に漆を500本も植え、漆掻きに取り組んでいます。

 

臼杵さんは、SHIZQと縁の深い漆芸家 泉谷さんの漆掻きの師匠といえる存在。

泉谷さんも今年から一部の木の漆掻きを担当しはじめた、という話を聞き、
その様子を取材させていただきました。

 

漆の木はどんな山に?

9月のある晴れた日。早起きして徳島を出発。
普段は6時半頃から作業をしているそう。
この日は、私たちのために1本だけ漆掻きをせずに待っていてくれました。

漆の木

香川県丸亀市綾歌町へ到着。泉谷さんの案内で、結構な傾斜面を登ります。
これが漆の木です。よく見ると木の幹に黒い筋が複数入っているのがわかるでしょうか?

漆掻き

こちらが泉谷さんが担当している漆の木です。
植えられてから約12年の木で、掻き取られた黒い筋が今までに削ったところ。
臼杵さんの元では、漆掻きは5月の入梅前からスタートし、9月下旬まで行います。
漆掻きをしたあと数日間は休ませないといけないので、
1シーズンに漆掻きをできるのは十数回くらいなのだそうです。

漆の実

漆の木をじっくり見るのは初めて。

この日は、漆の実を見ることができました。葉っぱはすでに黄色く紅葉しかけています。
この季節、山で一番乗りで黄色くなる木は漆が多いそうです。

漆掻き

「漆掻き」をするときの出で立ちがこちら。
長袖、長ズボン、腰には、カマ、ヘラ、カンナなどをぶら下げています。
これらの道具も手作りするのだとか。

 

いよいよ「漆掻き」がスタート!

 

漆掻き

それでは「漆掻き」を見せていただきましょう。
まずは、樹皮を皮剥ぎカマで削り、木の表面をなめらかにします。

漆掻き

続いて、曲線状になった刃物・掻きカマで1本まっすぐに削ります。
前回までに傷を付けた部分は黒く変色しています。

漆掻き

掻きカマは刃先が丸くなっているので、樹皮が棒状に削られます。

漆掻き

削ると白い樹液が出てきます。これが漆です。
したたり落ちるしずくを掻きヘラですくって、タカッポと呼ばれる容器へ入れます。

 

 

貴重な、貴重な、小さな1滴

 

漆掻き

掻きヘラの先端の白い1滴をご覧ください。
削り取ったところからじんわり滲み出た樹液は、ほんの耳かき1杯程度です。

テレビで見たゴムの木のように流れ出てくるわけではありませんでした。
この作業を繰り返すのですから、本当に気の遠くなるような作業です。

雨露で木が濡れているときに漆掻きをすると、その後、漆の出が悪くなるのだそう。
だから雨の日は漆掻きはできません。漆はとてもデリケートなのです。

漆掻き

1本の木には数箇所の傷をつけますが、縦にまっすぐ白い部分が残るようにします。
こうすることで、木のダメージを抑え、1シーズンの間、漆を採り続けることができます。
そして、漆を取りきった秋には、伐採するとのことでした。

漆掻き

この日、撮影用に残してくれていた1本を削ること約30分。
採取できたのは、ほんの少し。約5mlくらいでしょうか。

まさに漆の貴重さを実感した瞬間でした。

 

今年初めて漆掻きに取り組んだ泉谷さんにお話をうかがいました。

「漆の木に傷を付けても翌週には黒く乾いているんです。来年に向けて成長しようとしている漆の木を見ていると、その木にストレスを与えることに抵抗を感じる時もありました。

貴重な漆が垂れてしまったり、思い描いたような傷を付けることができなかったことなど、いくつか心残りなこともあります。結果がすぐに見えない課題の多い分野だと思いますが、これからも長く関わっていきたいです。」と話されていました。

 

漆を掻き、そして苗木を育てる

 

漆掻き

今日の漆掻きは終わり、山道を下ります。右側の数本が漆の木です。
漆の木の根元は草刈りをして、風通しをよくし、木が乾くようにしています。
山の草刈りは大変な作業だったでしょう。

漆苗木

山をおりてから、臼杵さんに苗木を見せていただきました。

京都で活躍していた漆芸家・臼杵さんは岩手県二戸市浄法寺で漆掻きを学び、
近年、実家のある香川へ移住してきました。

 

漆苗木

こちらは苗木を植えて1年くらいの状態。

ある程度、背丈が伸びた苗木を山へ植えます。
苗木を植えてから漆の採取ができるようになるには10〜15年という時間が必要なのだとか。

一般的には約10年育て、1シーズンで約200mlほどの漆を採取し終わったら伐採するそう。
長く育てても1シーズンで伐採だというのは、切ない気持ちになりますね。

漆は本当に貴重な素材なのです。

 

漆_臼杵春芳さん

工房の壁には、漆掻きを終えた漆の木が立て掛けられていました。

臼杵さんの場合は木地造りもできる漆芸家なので、
これらの木は、椀などの材料として活用するそうです。
今日見せていただいた漆の木は、いつか作品となって再生するのですね。

 


いま、漆を使うということ

塗りに使う漆は、産地によって個性・特性があるので、
漆芸の作家さんたちは用途によって使い分けているそうです。

SHIZQの場合は、よく乾く漆をたっぷり吸わせたいので、
希望する濃度にブレンドしたものを使っています。
いつかSHIZQも四国産の漆を使ってみたいものです。


長い長い時間をかけて漆を育て、1滴1滴の漆のしずくを集める・・・。

 

これを垣間見せていただいたことで、
拭き漆で仕上げたSHIZQの「亀・亀八シリーズ」の貴重さが改めてよくわかりました。

 

また一方で、掻き集めた漆からゴミを取って生漆(きうるし)として、塗料や接着に使うこともできるそうです。

そもそも漆は、昔から人々の文化的な生活に必要なものだったからこそ栽培・収穫されてきました。
合成塗料など便利な素材で溢れている現代において、
漆という循環可能な伝統文化を使い続ける意義がある、ということを痛感しました。

 

わたしたちの暮らしの中に、漆のものを取り入れてみること。
そう思っていただけるものを、小さくても作り続けること。
この大切な文化を守ることにこれからも関わっていきたいと想いを新たにしました。

しずく亀シリーズ拭き漆

 

しずく亀八シリーズ拭き漆