2022.8.1 更新
こんにちは。神山しずくプロジェクトの渡邉です。
冬に近づくこの季節は紅葉やファッションも、こっくりとした色味に惹かれますね。
SHIZQの器には、杉のナチュラルカラーを生かしたクリアコーティング仕上げの鶴シリーズと、漆を施した亀・亀八シリーズがあります。
これからの時期には、落ち着いた雰囲気の漆の人気がいつも以上に高まってくるのです。
今日は、そんな漆についての紹介として、亀・亀八シリーズについて初公開のお話をお伝えしたいと思います。
亀・亀八シリーズとは?
拭き漆5回塗り仕上げ。
さらさらとした触り心地のなかにはっきりとした年輪の質感を感じます。シックなマット仕上げで特別感を演出。
鶴亀セットで結婚式のお祝いなどに人気です。
拭き漆8回塗り仕上げ。
手に吸いつくような触り心地とゴールドに輝く年輪。光を浴びて艶めく佇まいは、息を飲むほど。
最上位の貫禄が、長寿や受賞記念など栄えあるお祝いにも喜ばれています。
仕上がりの質感の違いで同じ拭き漆ながらも、別シリーズとして展開しています。
偶然から生まれた亀八シリーズ
SHIZQを発売開始した当初は、鶴・亀シリーズのみでスタートしました。
それから2年ほど経ったある日のこと。
納品された亀シリーズのカップを検品しているとひときわ目を引くものが2つ。持ち上げよく見てみると、それはそれは美しい光を放っているのです。
「どうして、この子たちだけこんなにも違うの?」
そんな純粋な疑問を漆塗りをお願いしている漆芸家の泉谷さんに尋ねてみると、、
「杉に付いていた傷が取れるまで、しっかりと磨いたからだと思います。」
聞けば、一緒に納品された他のものに比べ倍近い手間と漆を使って下さっていたのです。
杉は他の樹種に比べても柔らかく、傷が入りやすい繊細な素材。コーティング前の無垢の状態では、十分に気をつけていても、塗料を塗って、初めて見えるようになる小さな傷もあるほどです。
ただ、塗装の工程に進んだものを戻すのは現実的には難しく悩ましい。そんな時、元々付いている傷だから、と担当の仕事だけでやり終えることも可能ではあります。
でも、泉谷さんはそうはしませんでした。
杉の弱さをカバーし商品として本当に美しいものを提供しようと、見逃すことなく根気強く杉と向き合ってくださった結果、光り輝く艶めきが生み出されたのです。
作り手からの太鼓判
この美しさは再現可能なのか、どれほど時間やコストが掛かるのか。
検証するため1番小さな商品で試作をお願いしました。
そうして生まれた、煌めく小さなぐい呑みは、酒の肴がいらないくらい満足感の高い惚れ惚れとする逸品となって、私たちの前に現れました。
最初の気付きから、すっかりその艶に魅了されながらも価格を考えると本当に商品として成立するのか?現実的な不安もありました。
商品開発も値段設定も未経験で迷う私に、泉谷さんの一言が商品化を決心させました。
「私、このぐい呑み、本気で欲しいと思いました。」
同じ素材で違いを生み出す
実は、亀八シリーズは亀シリーズよりも手間がかかっているから大変で、亀は簡単と言う単純な話ではありません。
亀八シリーズは手間を惜しまず、漆を惜しまず、凹凸のある杉の表面が鏡面となって光が均一に反射するほど、磨き上げて作り出されます。
手を掛けるほどに美しさを増す一方、作品ではなくSHIZQの”商品”である以上、統一された品質をいくつも作る必要があります。
使える時間や労力には限りがある中で、積み重ね極める美しさ、と言えるでしょう。
逆に亀シリーズは亀シリーズならではの良さをさらに伸ばし、漆をたっぷり吸った杉の質感を生かす方針に。
これも、泉谷さんがアイディアをくださいました。
杉は厳密には年輪の濃い部分が硬く、その間の薄い部分が非常に柔らかい二種類の硬さの繊維が交互に重なって層となっています。
硬い部分は漆を吸い込みにくく、柔らかい部分は漆をぐんぐん吸い込みます。
その結果、漆を多く吸ってぎゅっと固まる部分が沈み、表面の凹凸により大きな差が生じます。
これが、年輪を手触りで感じられる質感となるのです。
この指先で感じる年輪を残すためには、磨きは最小限。
亀シリーズは、少ない手数でイメージに近づける、ミニマルを極める美しさです。泉谷さんは「手を掛けられるチャンスが少ない分、亀の方がより難しい」と話します。
甲乙つけ難い特長を持つSHIZQの漆器。手間と材料費の差で、価格も変わります。
それでも購入されるお客さまはみなさん、値段の差よりも物自体の違いを見極め、お好みや使うシーンと照らし合わせて気持ちよくお買い物をしてくださいます。
決して安くない価格にも関わらず、そのような選び方をしてくださるお客さまと、そうしてもらえるだけのパワーを持った商品であること、
そのどちらにも私は誇りを感じています。
そんな気づきがあったのも同じ杉の木に同じ漆を塗り、別のものを生み出す技術力と、SHIZQに寄り添う泉谷さんのものづくりがあったから。
SHIZQ商品開発時に「杉の器に漆を塗るなんて贅沢すぎて商品化は難しい」と言われた亀シリーズ。
このような経緯や泉谷さんとの関係を築けたおかげで、今や自信を持ってお出しできる商品へと育てることができました。